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アクテム・ジーワン オーディオ レポート

第一回 プリアンプ編
第二回 パワーアンプ編
第三回 マルチアンプシステム編
第四回 チャンネルディバイダ編
第五回
 電線編
第六回 静電容量編
第七回 負帰還編


***********  第6回 静電容量編  ***********

キャパシタンスについて


先回、電線にはインダクタンスがあり、電流の流れを妨げる働きがあることをお話しました。今回はキャパシタンス(静電容量、あるいは略して容量といいます)の話でこれも電線に関係があります。容量C(F)は2つの導体が隣接するとその間に自然発生的に生じます。その値は平板導体が向き合っているとき、その対向面積S(m2)に比例し、間隔d(m)に反比例するので、C=εd/S(F)で求められます。ここで、比例定数εは導体間にある物質によって決まる量で、誘電率と呼ばれ、真空の場合は8.855×10―12です。とにかく導体が向き合うところ必ず容量ができるのですから、電子回路は回路図に書かれていなくても容量だらけになり、これが回路設計上悩みの種になります。ところが、容量を持つ素子、キャパシタ(コンデンサーとも言います)は、直流は通さないが交流は通す性質があるので、電子回路ではなくてはならない素子の一つです。電気屋は、電気工学の習い始めに、抵抗、インダクタンス、容量の3要素が回路の中でどのような働きをするかということを最初に習います。

ところで、前回述べたようにスピーカーコードは往復の線を隣接させればインダクタンスが劇的に減るのですが、線間の容量は間隔dが小さくなるので増大します。そうすると、交流電流が容量を通ってアンプに戻ってしまいスピーカーに届かなくなりますが、アンプの出力抵抗(交流に対しては出力インピーダンスといいます)が低いので、よほど長くないかぎりあまり問題にはなりません。ところが、プリアンプとパワーアンプなどを接続する同軸ケーブルは、インピーダンスが高いところに使われるので注意が必要です。同軸ケーブルは導体で作られた芯線のまわりを絶縁物で囲み、その回りを円筒状導体で囲った線路です。行きは芯線、帰りは外側導体、外側導体はアンプの筐体とつなぎアース電位にして外部からの雑音を遮蔽します。この同軸ケーブルの単位長当たりの容量は、C =2πε/log(b/a) (F/m)(aは芯線の直径、bは外側導体の内径)で求められます。この式からわかることは、同軸ケーブルの単位長あたりの容量は誘電率εに比例し、芯線の直径aと外側導体の内径bの比で決まることです。単位長当たりの容量を小さくするためには、誘電率εの小さい絶縁材料を使い、芯線を細くすればよいのですが、芯線を細くすれば抵抗が大きくなります。太い芯線を使って容量を小さくしようとすれば太いケーブルにならざるを得ません。その結果、1メーター何万円もする太い同軸ケーブルが売られているわけですが、マルチアンプシステムでこんな高価なケーブルを何本も使うのは堪りません。繰り返しになりますが、チャンネルディバイダを分割してそれぞれのフイルタをパワーアンプに入れれば、チャンネルディバイダとパワーアンプを結ぶ同軸ケーブルは全部不要になります。

同軸ケーブルの絶縁物にはほとんどポリエチレンが使われています。ポリエチレンはスーパーのレジ袋に使われているくらい安価ですが、誘電率εが小さく、損失も非常に少ない電気的には大変すぐれた高分子材料で、可撓性があるのでケーブルには最適です。誘電率εを更に小さくするために発泡ポリエチレンもよく使われます。空気を含んでいるので誘電率εは空気とポリエチレンの中間値になります。

このようにケーブルにはポリエチレンのような誘電率εが小さくて柔らかい絶縁材料が好まれますが、キャパシタは正反対で、小さ容積で大きな容量を得るために、誘電率εが大きい絶縁材料が好まれ、硬いことが要求されます。キャパシタの中で対向する導体(電極といいます)の間に電圧がかかると、電極間に引力が働き、絶縁物が柔らかいと電極間の距離が変わって容量変化を生じるからです。交流の場合は電極が振動して混変調歪の原因になると言われています。オーディオ回路に使われるキャパシタの絶縁材料として比較的損失が大きいにもかかわらずマイカが珍重されるのは、ほかの絶縁材料に較べて硬いからです。そんなわけで、必要であるにもかかわらずオーディオアンプのキャパシタはインダクタに次いで嫌われ者です。取り払って直接つないでしまえば使わなくてすみ、直流まで通るようになりますが、直流的安定度が要求され、回路設計は格段にむずかしくなります。それでも何とかしてキャパシタをなくし直流まで通したい一心で、多くのマニアがDCアンプに挑戦します。ラインドライブアンプ、チャンネルディバイダ、パワーアンプすべて直流が通るシステムを長年使っていますが、成功すればそれだけのことはあると思います。

では、この回の最後に漂遊容量のお話です。電子回路の中で一番困るのは配線間の漂遊容量ではなく、多くの場合それよりずっと大きいトランジスタや真空管など能動素子中の漂遊容量です。バイポーラトランジスタには接合容量、FET、真空管には電極間容量があます。その上、容量分が出力側に増幅されて現れるミラー効果があります。多くの場合、最も問題になるのはアンプ出力段のトランジスタ、真空管の入力容量で、高い周波数で利得が低下し、位相がずれる最大の原因になります。出力トランスはもっと深刻ですが、真空管回路以外あまり使いません。なにしろ、素子の中身ですからいじるわけにはゆきません。影響を少なくするには、回路全体のインピーダンスを高くしないことです。トランジスタの内部容量は真空管に較べてかなり大きいのですが、通常トランジスタ回路はインピーダンスが十分の一程度なので助かっています。この漂遊容量が、次回のテーマ「負帰還」と密接な関係があります。
(by 師匠 A.K.)
2007.06.23

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